コーヒードリップパックを自作して販売するには、いくつかの手続きが必要です。2021年6月の食品衛生法改正により、それまで届出不要だったコーヒー製造・加工の販売にも「営業届」の提出が義務付けられました。どの手続きが必要で、何を準備すればよいのか、順を追って整理します。
手続きの全体像を把握すれば、準備の抜け漏れを防げます。営業届・食品衛生責任者の資格・食品表示ラベルの3点が主な柱です。販売形態(対面・ネット・イベント)によって必要な対応も変わるため、自分のケースに当てはめて確認するとよいでしょう。
この記事では、許可と届出の違いから始まり、食品衛生責任者の取り方、食品表示の記載事項、ネット販売の追加要件まで順番に整理します。副業・開業の入口として把握しておくと安心です。
ドリップパックの販売に必要な許可と届出の違い
「営業許可」と「営業届」は別の制度です。コーヒーのドリップパックを自作して販売する場合にどちらが該当するかを把握することが、準備の第一歩になります。
営業許可が必要な業種とは
食品衛生法では、食中毒リスクの高い食品を製造・加工する業種に「営業許可」の取得を義務付けています。許可が必要な業種は32種類と定められており、乳製品製造業・食肉製品製造業・密封包装食品製造業などが代表例です。
密封包装食品製造業は、常温保存が可能な形で密封包装した食品を製造する場合に該当します。コーヒーのドリップパックはこのカテゴリに近い製品形状ですが、厚生労働省の資料では、コーヒー豆・コーヒー粉(レギュラーコーヒー)は密封包装食品製造業の許可対象から除外される食品として指定されています。詳細は厚生労働省公式サイトの「密封包装食品製造業について」のページで確認できます。
コーヒーをその場で提供するカフェ営業は、「飲食店営業許可」の対象です。ドリップパックの製造販売とは別の許可になるため、両方を行う場合はそれぞれの手続きが必要です。
コーヒー製造販売は「営業届」の対象
コーヒー豆の焙煎・粉砕・袋詰めをして販売する事業は、2021年6月1日施行の改正食品衛生法により「営業届」の提出対象となりました。これは厳しい施設基準が求められる許可とは異なり、営業開始前に管轄の保健所へ届け出る手続きです。
既に焙煎・パッケージ済みのコーヒー粉を仕入れてそのまま転売する場合は、届出の必要はありません。自分で焙煎したり、仕入れた豆を挽いてドリップパックに詰め替えたりする「加工」が発生する場合に届出が必要です。
届出はオンライン(食品衛生申請等システム)または保健所の窓口から行えます。手続きの詳細は管轄保健所によって異なるため、営業所所在地を管轄する保健所の窓口に事前確認するとよいでしょう。
届出が不要なケース
仕入れた完成品(既にパッケージ済みのドリップパック)を小売りする場合は、販売業の届出対象にもならないケースがあります。ただし、販売形態や規模によっては届出対象になる場合もあるため、自治体の食品衛生担当窓口に確認するのが確実です。
・自作ドリップパック販売 → 営業届(保健所へ届出)
・カフェでコーヒーを提供 → 飲食店営業許可
・仕入れた完成品をそのまま転売 → 届出不要(加工なしの場合)
・自治体によって扱いが異なる場合あり → 管轄保健所に要確認
- >コーヒー豆・粉の製造販売は「営業届」の対象(2021年6月以降)>カフェ提供と販売を両立する場合は別々の手続きが必要>仕入れ完成品の転売は加工がなければ届出不要の場合が多い>詳細は管轄保健所への確認が最も確実
食品衛生責任者の資格と設置の要件
営業届を出す施設には、食品衛生責任者を設置することが義務付けられています。この資格は取得のハードルが低く、1日の講習を受ければ誰でも取得できます。
食品衛生責任者とは何か
食品衛生責任者は、食品を扱う営業施設ごとに設置が必要な管理担当者です。食品衛生法に基づき、施設内の衛生管理を担う役割を持ちます。個人で副業として販売する場合は、原則として自分自身が食品衛生責任者となります。
栄養士・調理師・製菓衛生師などの資格を既に持っている場合は、そのまま食品衛生責任者に就任できます。資格がない場合は、各都道府県の食品衛生協会が開催する「食品衛生責任者養成講習会」の受講が必要です。
養成講習会の内容と費用目安
養成講習会は1日で修了するものが大半です。食品衛生学・食品衛生法・公衆衛生学の3分野を学び、確認試験を受けます。難易度は高くなく、当日の受講で修了証を受け取れます。
受講費用は自治体・年度によって変動します。最新の費用・日程は、各都道府県の食品衛生協会公式サイトでご確認ください。申込みはオンラインまたは窓口で受け付けている団体が多いです。
設置・変更の届出タイミング
食品衛生責任者の設置は、営業届の提出と同時に行います。責任者が変わった場合は変更届が必要です。施設ごとに1人の設置が求められるため、複数の施設で販売する場合はそれぞれに設置が必要です。
1. 既存資格(栄養士・調理師等)がある → そのまま就任可
2. 資格がない → 養成講習会(1日)を受講 → 修了証取得
3. 営業届と同時に責任者として届出
- >施設ごとに1名の食品衛生責任者設置が義務>養成講習会は1日受講で修了証取得可能>費用・日程は都道府県の食品衛生協会公式サイトで要確認>既存の食品衛生資格保有者は講習不要
ドリップパックに必要な食品表示の記載事項
食品表示の要件は販売形態によって変わります。対面販売と通信販売では義務の範囲が異なるため、自分の販売方法を確認した上でラベルを準備するとよいでしょう。
表示が必要になる条件
対面販売(カフェ内の販売コーナーやマルシェでの手渡し販売など)では、加工食品の食品表示が義務付けられていないケースがあります。一方で、ネット通販・メール注文など不特定多数へ発送する形式では、食品表示法に基づく一括表示が必要です。
消費者庁の食品表示制度では、容器包装に入れた加工食品を販売する場合に表示義務が生じます。ドリップパックとして密封した製品は容器包装入り加工食品に該当するため、通信販売・量販店への卸・ECサイトでの販売では必ず表示が必要です。
コーヒー(レギュラーコーヒー)の必須記載事項
全日本コーヒー協会の情報ラベル解説や、全日本コーヒー公正取引協議会のコーヒー表示規約では、レギュラーコーヒーに必要な記載事項が整理されています。以下の項目が基本です。
| 記載項目 | 表示例・補足 |
|---|---|
| 品名 | レギュラーコーヒー(粉の場合は「レギュラーコーヒー(粉)」) |
| 原材料名 | コーヒー豆 |
| 生豆生産国名 | 原材料名の次に括弧書きで国名を表示(例:生豆生産国名:エチオピア) |
| 内容量 | グラム数(例:10g×5袋) |
| 賞味期限 | 焙煎日から1〜2ヶ月が目安(根拠を持って設定) |
| 保存方法 | 直射日光・高温多湿を避けて保存、など |
| 製造者(又は販売者) | 氏名・屋号、住所を記載 |
ブレンドを販売する場合は生豆生産国名を割合の高い順に表示するなど、追加のルールがあります。表示規約の詳細は全日本コーヒー公正取引協議会(AJCFT)の公式サイトでご確認ください。
表示ラベルの作成方法
ラベルはWord・Canva・専用ラベル印刷ソフトなど手軽なツールで作成できます。コンビニやオンラインのラベル用紙に印刷して手貼りする方法が個人販売では一般的です。表示内容に不備があると食品表示法違反になるため、消費者庁公式サイトの「食品表示法」関連ページで最新要件を確認してから作成するとよいでしょう。
- >対面販売は義務対象外のケースがある(自治体確認を推奨)>通信販売は食品表示が必須>レギュラーコーヒーには品名・原材料名・生豆生産国名・内容量・賞味期限・保存方法・製造者の7項目が基本>表示規約の最新版は全日本コーヒー公正取引協議会公式サイトで確認
ネット販売・イベント販売それぞれの追加要件
販売チャネルによって、食品衛生法以外にも対応が必要なルールが加わります。ネット販売では特定商取引法、イベント販売では臨時営業の手続きが関係することがあります。
ネット販売に必要な特定商取引法の対応
ネットショップでコーヒー商品を販売する場合、特定商取引法(特商法)に基づく表示がショップページに必要です。具体的には、販売事業者の氏名または屋号・住所・電話番号・メールアドレス・販売価格・送料・支払い方法・発送時期・返品・交換の条件などを掲載します。
個人が副業で販売する場合も事業者として特商法の対象になります。住所の公開に不安がある場合は、私書箱や事業用の住所サービスの活用を検討するとよいでしょう。詳細は消費者庁公式サイトの「特定商取引法ガイド」ページで最新の要件を確認できます。
イベント・マルシェでの販売手順
マルシェやフリーマーケット形式のイベントでコーヒーを販売する場合、イベントの主催者・会場の所在自治体によって手続きが異なります。臨時営業届や露店営業の届出が必要になるケースがあるため、イベント参加前に主催者と管轄保健所の両方に確認するとよいでしょう。
ドリップパックを密封した状態で手渡し販売する場合と、その場で飲料として提供する場合は要件が異なります。飲料提供を行う場合は飲食店営業の許可が必要な場合があります。
製造場所の施設要件
営業届を出す場合、製造に使用する施設が一定の衛生基準を満たしていることが求められます。自宅のキッチンを使う場合でも、保健所の担当者に製造環境を説明し、問題がないか確認しておくとよいでしょう。施設要件の詳細は自治体ごとに異なるため、管轄保健所の食品衛生窓口に相談するのが確実です。
・ネット販売 → 食品表示 + 特定商取引法の表示ページ必須
・イベント・マルシェ → 臨時営業届の要否を主催者・保健所に確認
・飲料としての提供 → 飲食店営業許可が別途必要な場合あり
- >ネット販売は特商法の表示ページが必須>イベント販売は主催者と管轄保健所の両方に事前確認>飲料提供は飲食店営業許可の対象になる場合がある>製造施設は保健所に相談してから届出が安心
手続きの流れと準備スケジュールの全体像
手続きの流れを整理しておくと、準備をスムーズに進めやすくなります。届出から販売開始まで、おおまかな順番と並行して進めるべき作業をまとめます。
ステップ1:保健所への事前相談
最初に行うべきは、管轄保健所への事前相談です。自作ドリップパックを販売する旨を伝え、営業届の必要書類・施設要件・食品表示の確認方法を確認します。保健所によっては施設の図面や製造フローの提出を求める場合もあるため、相談の段階で必要な準備物をリストアップしておくとよいでしょう。
保健所の食品衛生担当窓口には、事前に電話で相談内容を伝えてから訪問するとスムーズです。自治体によってはオンラインでも相談を受け付けています。
ステップ2:食品衛生責任者の資格取得
保健所への相談と並行して、食品衛生責任者の養成講習会の日程を確認します。講習会は月に1〜数回開催されています。申込みから受講まで数週間かかる場合があるため、販売開始予定日の1〜2ヶ月前に動き始めるとよいでしょう。
ステップ3:営業届の提出と食品表示の準備
食品衛生責任者の修了証を取得したら、営業届を保健所に提出します。届出は原則として営業開始前に完了させる必要があります。同時進行で、販売するドリップパックのラベルに必要な記載事項を整理し、ラベルの印刷・貼付の準備を進めます。
| ステップ | 内容 | 目安時期 |
|---|---|---|
| 1 | 保健所に事前相談 | 販売開始の2ヶ月前 |
| 2 | 養成講習会の申込み・受講 | 販売開始の1〜2ヶ月前 |
| 3 | 食品表示ラベルの作成 | 販売開始の1ヶ月前 |
| 4 | 営業届の提出 | 販売開始前(完了必須) |
| 5 | 販売開始 | 届出完了後 |
よくある確認漏れ
副業として始める場合に見落としやすいのが、販売プラットフォーム(メルカリShops・BASE・minne等)側の利用規約の確認です。プラットフォームによっては、食品を販売する際に営業届の写しの提出や事前申請が必要なケースがあります。各サービスの「食品販売に関するガイドライン」や「出店審査」のページを事前に確認しておくとよいでしょう。
また、freee・マネーフォワードなどの会計ツールで収入管理を始めておくと、確定申告の際にも役立ちます。副業収入の取り扱いは最寄りの税務署または国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で確認できます。
- >保健所への相談は販売開始の2ヶ月前が目安>養成講習会は申込みから受講まで数週間かかる場合がある>営業届は販売開始前に完了させること>販売プラットフォームの食品販売ガイドラインも事前に確認
まとめ
コーヒードリップパックを自作して販売するために必要な手続きは、「営業届の提出」「食品衛生責任者の設置」「食品表示の準備」の3点が基本です。2021年の法改正以降、自家焙煎・粉砕・袋詰めを行う場合は営業届が必要になっているため、無届での販売は避けるとよいでしょう。
まず管轄保健所に相談するところから始めてみてください。手続きの流れや施設基準は自治体によって異なるため、公式窓口で個別に確認するのが最も確実です。
副業・開業のどちらで進める場合も、準備の全体像が見えれば一歩を踏み出しやすくなります。手続きを正確に整えることで、安心して販売をスタートできます。

